2023-07-22

バイク

 パチンコ屋の帰りにバイクが動かなくなった。パチンコ屋の店員さんに工具を借りて、その場でスパークプラグの確認だけしてみたが、火は飛んでいたから、これは僕の手にはおえない。近くにバイク屋があるので、そこまで持って行く事にした。


あまり近くなかった。炎天下で30分もビッグスクーターを押すのは酷だった。さらに、店に着いても「ウチはパーツ屋なんで…」と一瞬で断られた。「近くに修理できる店ありますよ」と教えてもらったから、またバイクを押した。


全く近くなかった。先ほどの店員さんは「車でなら近い」という事だったようだ。炎天下で計2時間もビッグスクーターを押すのは拷問のようだった。地下で永遠にぐるぐると手押し車を押す奴隷を思い浮かべた。そして、修理は断られた。最近は忙しいから、予約で手一杯らしい。


覚悟を決めて、家まで押す事にした。全然進まないけど、押していればいつか必ず帰れる。休憩を取りまくれば大丈夫。ぐるぐる回る奴隷の人よりはマシだ。


いつか帰れると思っていたが、疲労のことを考慮していなかった。徐々に押せなくなる。休憩の頻度が上がる。汗が止まらない。極端に左腕に負担がかかる。奴隷よりマシというだけが心の支えだった。


あと1時間くらいで帰宅出来そうな所で、「誰が奴隷だ!こんちくしょう」と、心の支えが折れた。道路に座り込んでボイコットした。しかし、暑いから、座っていても事態は悪化していくと気づいたのは10分後だった。見知らぬ婆さんが「エンストかえ?」と聞いてきた。婆さんはとても親切で、ガソリン無いなら分けてあげる、バッテリーなら充電してあげる、腹は減ってないか?と言ってくれた。ガソリンはあるし、バッテリーかどうかは分からないし、4時間半もバイク押してたから吐きそうで食欲もない。と、僕が全てを断ると、婆さんは「こんな婆さんとでも、会話しただけでも、少しは休憩になったじゃろ」と言った。神様かと思った。

気持ちを立て直して、計5時間半で帰宅できた。



彼女に「熱中症なめんな。死ぬぞ」と、めちゃくちゃ怒られた。