2019-08-21

大仏バーナイト

数年に一度開催される大仏バーナイト。
フライヤーには酒の甲子園と書いてある。
僕はこのパーティーに行きたくない。すごく行きたくない。でも毎回呼ばれる。

このオファーがあったのは1カ月半前。
大仏くんから電話があった。出た瞬間に大仏くんが何か言う前に「いやだ。行きたくない」と先制したものの「まあまあまあ」と言われた。行く意味もないし、何かを失うから嫌だと力説しても「まあまあまあ」しか言われない。言葉が通じない。これはオファーの電話じゃない。ただの通告だった。最後の悪あがきとして「行かないとは言わないが、行くとも言わん」と言った。大仏くんは「じゃあ、よろしくです」と言って電話は切れた。

「まあまあまあ」「気合いでしょ」「じゃあよろしくです」の3フレーズだけで押し切られたし、「大仏バーナイト」というフレーズが出なかった気もするのだが、しっかりとフライヤーに名前が載せられた。何かを本気で全力で断ったのは人生でもこのパーティーのオファーだけなのだが、僕の本気と全力が叶った事は無い。

この日からパーティー当日まで、僕は元気が無くなった。
彼女は忙しい時期なので休みが取れない。僕ひとり。倒れるまで酒を飲んで、朝に新幹線で名古屋に帰らねばならない。ホテルを取っても、チェックアウトの時間なんかに起きれないし、マンガ喫茶はというと、そもそも入店拒否されるし、うまく入店できても、室内で吐いた経験もあるので、ここは何としても帰る。の一択なのだが、どうシミュレーションしても帰れる気がしない。携帯と財布を失くす事だけはしたくない。携帯は膨大な時間を費やしたゲームのデータがある。あと最悪なのは新幹線の中で力尽きて、終点まで行く事で、山手線をぐるぐるするのとは別格の時間と金が奪われる。博多まで行ったら、もう旅行するしかない。でも二日酔いが酷いだろうから旅行にならない気もする。

なんでこんな心配させられるんだ。くそう。
本気で断ったはずなのに。

どうにか、150〜200点で抑えて、大仏くんから逃げ回るしかない。
大仏くんが酔っ払うと、何故だか僕を探し始める。暗闇に隠れてても、携帯で照らし回って僕を探す。見つけると、めちゃくちゃ飲ませてくる。ファイナルファンタジーのトンベリみたいだ。たぶん大仏くんにとって、僕は「壊れないオモチャ」みたいなもので、どれだけ飲ませても死にはしないし、そのあとにいろんな身体的精神的経済的ダメージがあっても請求もされない。電話1本でほいほいと呼べる。まあ、そんなところだろう。

どうやったらうまく帰れるんだろう。という出口の無い問題を抱えて当日を迎えた。

「行かない」という煌びやかな出口は見えているのだが、人としてそれはどうだろう。いや、そもそも人として大仏くんはどうなんだ。ほぼ殺人未遂じゃなかろうか、いや今ここから悩んでも仕方ない。電話に出なきゃ良かった。これも今悩むことじゃない。ああああああああ。もう出発の時間じゃないか、あんまり寝れなかったな。

そんなこんなで、僕は着替えてまんまと出発した。