2020-02-06

どっちなんだろう

彼女が休みだったのでオヤジのお見舞いに行った。
病室に入るとオヤジはテレビを見ていた。音も出して見ている。

最近のオヤジはテレビをただ見つめているだけで、音が出ていても、出ていなくても気にしない。なんで今日は音出してるんだろ。なんかテレビ見てるな。ボーっと見つめてる感じじゃないな。調子良さそうだな。

今日は彼女も連れてきたぞ。調子はどうだ?みたいないつもの会話をしてみたが、はっきり返事が来るし、なんか滑舌が良くなってる。「はうはうはう」としか言えなかったのに、かなり普通に喋ってる。

そして、「今日、鏡見たらさ。髪がまた生えてきててな。今なら遺影の写真を撮ってもいいかと思うんだ。もしもの事があった時の為にさ」なんて言い出した。なにこれ。
今回のオヤジの認知状態は、せん妄じゃなくて、ガンが頭に飛んだやつだから絶対正常には戻らないと思ってたが、どうやら1カ月まるっとせん妄だったようだ。
「俺は入院したくなくて、ストレスがすごくて、それ以降は夢を見ているようだった。アレは全部妄想だったのか」と、逆にこっちが付いていけないくらいにオヤジの頭はハッキリしていた。何のタイミングなんだろう。一時退院したわけでもないし、なんの変化もなくオヤジは病室にいるのに、1カ月もして、こっちが諦めた頃に急に戻った。オヤジっていつもこう。

主治医の先生がいつものように挨拶に来てくれた。オヤジは「今日もこんな姿勢でごめんなさい」と寝たきり状態で会話する事を謝った。僕はオヤジのこうゆう所が大好きだし、僕にも遺伝されていると思うので、オヤジに感謝している。まあ、コレはせん妄状態の時も同様に謝っていたので、先生にとって違和感は無かったが、言葉がはっきり言えている違和感はあるし、その後の会話が成立している事にめちゃくちゃ驚いていた。目が飛び出る、みたいな顔をして「こんな事があるんですねえ」と言っていた。

血液検査の数値も日に日に悪くなっていて、認知状態も悪くなっていて、ボケて死の恐怖とも向き合わずに死にゆく。みたいなレールに乗っかったと誰しもが思っていたのに、オヤジは目覚めた。身体だけは安定して死に向かっているのに。


こんなオヤジが「あーあー、家に帰りてーなー。家がいいよなー」と言い出した。
独り言のように見せつつも、チラチラと僕や彼女や母ちゃんを見ている。こいつ完全に復活したな。と思いながらも、こちらも誰も目を合わせず、その問いにも答えず、変な空気が流れた。

変な空気だっただろ今。とオヤジに言ってやりたいくらいに、帰りたいと言う言葉はその後も何回か出た。

本来のオヤジは、死に直面したら耐えられないくらいの弱めの精神力だから「死を感じさせないように」と、こっちが散々気を使っているわけで、、、だから「俺死ぬけどw」みたいなノリで「帰りてーなー」なんて発言をするはずがない。

なので、あの帰りてーなー発言に対して、軽々しく「いやムリムリw分かってるっしょw」なんて言ってはいけない。本気の「家に帰りたい」という願望なはずだ。コレが正解なはずだ。


合ってるよな?そうだよな?まだ死ぬって思ってないよな?
明るく死ねるような性格じゃないよな?

俺って意外とそーゆータイプよwみたいな事だったら、俺や母ちゃんは40年以上かけて大変な誤算をしている。