2019-09-04

オヤジ

母ちゃんからいろいろ聞かされて、僕は泣いた。大仏バーナイトで禁酒をするつもりだったが、めちゃくちゃ飲んだ。

そしていざオヤジの見舞いへ。今日はオヤジの病状のICの日。

看護師の彼女も連れて行くので頼もしい、というか、医者がどんな感じで僕らに言っても、画像やらなんやらで彼女が判断して「実際どーなの」みたいな事が分かる。

そしてIC。説明を受けながら画像を見せてもらった。まず首の画像だったが、素人でもすぐに分かるくらいに、首の骨の右側全部が溶けていた。ガンの転移で溶けたらしい。

で、原発はおそらくここです、と言われた肺の画像。
すごく小さい。「画像ではサイズが分からないと思われますが、1センチくらいです」と言われた。彼女の予想よりも小さかった。こんな小さなやつがサッサと転移して、首の骨を溶かしたのか。普段から病院に通ってるオヤジが何故急にこんな事に、とは思ってたが、そういう事かと納得した。

で、このICに頭の説明が無かった。腰の説明もなかった。

母ちゃんは、いろいろとパニックを起こしたらしく、実際には肺ガンが首に転移した。くらいの感じだったのに、頭と腰も痛がってるから、全部転移してると僕に報告してきて、頭まで行ったらなかなかヤバいとの彼女の診断で、僕は大号泣したわけだが、今のところ首にしか転移は見られてないわけで、とはいえ、たぶんもう長寿を全うする事は無さそうで、あと3〜5年くらいかなあという感じではあるけど、すぐに死ぬ事もなさそうだった。

母ちゃんから、経済的にヤバいから助けてくれない?と言われたが、そもそも保険料を毎月5万以上払ってて何十年、こんな時にも貧乏になるなら、何のための保険だ。年間60万だぞ。と、納得いかなかったので、保険屋さんを呼んで説明を受けたら、結局150万くらいは受給できる事がわかった。が、毎年60万くらい払って、ガン発覚で100万、入院費が1日1万。て、めちゃくちゃ保険負けしてねーかなあと思った。ガン発覚は、まあ最終的な補償な訳で、ガンになった、100万、治った。ガンになった、100万。てループするわけじゃないし。入院費と言っても、この後の抗がん剤治療は入院ではなく、通院なわけで…。
この仕組みは、60半ばでガンになったオヤジでさえも負けてる。保険ってなんだろと思った。家を買う時に次ぐ出費と言われてる保険。こんな「負け確」に払うのはどうだろうと、僕は思った。

2019-08-24

去年が最後だった

大仏バーナイトから4日経過。
未だに鼻の傷は治らないし、まぶたも紫色のまま。パッと見ただけで「この人、怪我してる」とすぐにわかるレベル。

彼女は「私が殴ったように見えるから嫌だ」と、一緒に歩くのを嫌がったが、彼女に殴られたように見られる僕の方が嫌だ。ショッピングモールで買い物をして、その買い物袋は全部僕が持っているその姿たるや。本当は数十センチのイスから落ちて最強打しただけであって…いや、その現実の情けなさたるや。

こんなタイミングでオヤジから電話。明日からガンで入院するらしい。

「もうあまり長く生きれる気がしないからあんまり心配かけるな」
「生き方が不安定ではあるがオヤジに頼らずにずっと生きれているんだから心配するな。自分の心配してくれ」
「おまえの生き方は俺とは違いすぎて理解が出来んのだ」
「幸せに暮らしてる」

というような会話もした。
すぐにでも見舞いに行くべきだが、僕はいま殴られたような顔をしている。昔、僕の叔父さんが看護師さんと結婚して、めちゃくちゃ殴られていた。なので誤解を生みやすい環境であるし、怪我をした時の経緯の説明をしたら「なーんだ。イスから落ちて怪我をして、裸足で渋谷から帰ってきただけか。DVじゃなくて良かった」と言ってくれる可能性が1%でもあるのだろうか。


今日、オヤジは入院した。
相当悪いみたいで、母ちゃんから泣きながら電話があった。

どんな感じかを母ちゃんから聞いたまま彼女に説明して、この病状の場合の余命の最短と最長を教えてもらった。

もうすぐ僕の誕生日。毎年オヤジは一人でプレゼントを持ってきてくれていた。最初の頃は車で。最近は「運転が辛いから」と電車で。2年前の誕生日の時に、途中で下車してゲロを吐いたから、心配だと、去年は母ちゃんも付き添っていた。
長居するわけでもなく「おまえが欲しい物がこれしか分からないが、飲み過ぎるなよ」とだけ言って、ウイスキーと梨の入った紙袋を手渡してすぐに帰って行く。



まだあと数年は生きれるかも知れないが、もう無理は出来ない。



オヤジからの誕生日プレゼントは去年が最後だった。

2019-08-23

その後

大仏バーナイトから帰宅して、軽傷だったなあと喜びを噛み締めながらとりあえずブログを書いた。書いたもののほとんど覚えてない。思い出せる最後の光景はヨウとヨネとスピリタスを飲んだ。という場面で、これはおそらく終電前だし「こんなキツい酒を1時間に2杯づつなんて飲める気がしない。いやもう1時間に2杯でもないし、これめちゃくちゃ蓄積されてる」と絶望を感じたところ。

最近は、1日でウイスキー1リットルくらいは飲めるようになったはずなんだが、ゆっくりと自分のペースで飲めばの話だし、そう考えるとあの点数表はよく出来てる。
ソフトドリンクは-10点だし、ビールは1点。2杯連続でイッキしたら2倍のボーナス。自宅での飲み方では全く点数にならない。悪魔の点数表。


夜、彼女が帰ってきた。玄関で立ち止まって入ってこない。かわいそうと連呼してる。渋谷から裸足で帰ってきたのが気に入らないらしい。もう裸足じゃないし、いや、家だからいまは裸足だけどもう裸足じゃないよ。と諭して、部屋に入らせた。

彼女は僕が心配で、昨日の夜、加藤さんと連絡を取り続けてほとんど寝れなかったらしい。

昨日の事はもう知りたくもなかったが、彼女からザックリと聞いた。

僕は終電前から倒れたそうだ。加藤さんから「神谷くん倒れた。口から泡みたいなのが出てるけど死なないかな?」みたいな連絡がきて「いつもの事で、それは寝ているだけで、そうなると誰が何したって起きないので、むしろ安心です」というようなやりとりをしたようだ。僕は毎日泡を吹いて寝ているのか。毎日死にかけてるんじゃなかろうかという疑問が浮かんだが、それを彼女に問うと「じゃあ酒飲むな」という当たり前の返事が返ってくるので問わない。触れてはいけない。

あとは、深夜に急に覚醒して、オルガンバーのバーカウンターに入って、ハイテンションでグラスを磨き始めたらしい。
綺麗に磨けていたなら良いのだが、どうせ全く役に立ってないだろう。日頃の家事のクセでも出たのか。

靴はどのタイミングで脱いだのか分からない。顔の傷は、椅子から落ちた時にぶつけたんだろうという事だった。今現在、鼻は切り傷になって腫れているし、右まぶたが紫色になっている。数10センチの椅子から落ちた時に考えうる最上級の強打だろう。この傷がそんなくだらない理由で良かった。

朝方、裸足で渋谷をフラフラしている僕を、みっちゃんが見かけたようなので、おそらく僕は一人で帰ったんだと思う。

いろいろ全く覚えていないが「絶対に帰る」という強い気持ちだけは、意識のない時の僕も守ってくれたようだ。


ついでに、という感じで前回の大仏バーナイトの時がひどかった事もいろいろと教えられた。教えられたんじゃなくて、説教されていたのかもしれない。


聞きたくなかったが、他人事のように「ふーん、そんな酔い方する奴いるんだねえ」と思った。酒での失態が膨大かつ壮大すぎて、もう30歳半ばくらいから、僕の頭は、それらの現実を受け止める事をやめた。


さらに次の日。22日。
彼女を接待すべく、ウナギを食べに行ったり、滋賀のアウトレットに行った。
ふくらはぎが千切れるんじゃないかというほどの筋肉痛で、頻繁に足がつった。
去年、終電で降りる駅を間違えて、酔ったまま30キロほど歩いた事があるのだけど、それに近いダメージを感じている。


渋谷からの帰路。僕は相当な距離を彷徨ったのかもしれない。

2019-08-21

大仏バーナイト当日

とりあえず、財布や携帯は失くさないようにスキニーパンツにした。
出来るだけ体力を温存するように、ギリギリまで全力でゴロゴロした。
他にやる事がない。頼りない。

新幹線の中で、加藤さんと連絡していたら「ひとりはヤバいね。前回も相当ヤバかったし」と心配してくれて「じゃあ僕もオルガンバー行きます。終電あたりまで様子をみて、ダメそうなら最後までいて介抱するよ」と言ってくれた。めちゃくちゃありがたい。

これで終電までに潰れた場合は助かる。ん、終電までに潰れた事あったかな。これは助からないな。


21時ちょい過ぎに渋谷に到着。加藤さんと合流してオルガンバーへ。

チャーベさんが早い時間から駆けつけてくれた。俺が帰るまでの金は任せろ、今日は神谷のタニマチだ。と言ってくれたので、ありがたいのですが、出来れば飲まずに無事に帰る事しか頭にないですと、この環境がいかに危険かを説明した。ウエンツも来てくれて、神谷〜金は任せろと言ってくれたので、出来れば飲まずに無事にかえ…

心配して付き添ってくれていた加藤さんが「なんか飲む?」と言ってくれたので、出来れば飲まずに無事にかえ…… タニマチだらけじゃないか。

ヨウとヨネが「応援に来ました」と来てくれたので、その応援は優勝を望むのか無事に帰る事を望むのかと聞いたら、そこまでは考えていなかったようなので、出来れば飲まずに無事にかえ…

とりあえず、誰か来るたびにスピリタスを2杯連続で飲んで、それ以外は一切飲まなかった。あ。このペースであとは1時間に一回くらいスピリタスを2杯飲んだらそんなにダメージもなく、それなりの点数も出せて、優勝もせずに帰れるんじゃないかという気がしてきた。

22歳の「口ばってんこちゃん」と言う女の子が、来て早々にズブロッカ20杯連続した。点数的にはスピリタスの方がいいのだが「こっちの方が飲みやすい」と言っていた。優勝を狙える飲み方ではないが、カッコいいじゃないか。華があるじゃないか。思わず動画を撮ってしまった。

このパーティー怖くないの?と聞いたら、前回集計係をしていて、倒れてる人を見た。と言うので、それは俺だ。と伝えた。

大仏くんがニヤニヤと「神谷さん〜。追いつかれちゃいましたね〜」と言ってきたので、頑張りたくないし、今から土下座しても良いから次回は呼ばないで!と懇願したが「まあまあまあ」と言われた。なんで伝わらない。


このあたりから、いま何時で、僕は何点で、誰が頑張ってるのか。いろいろ分からなくなった。大仏くんから逃げないと、という忘れちゃいけない事も忘れた。



何が起こったのか分からない。誰と会ったのかも分からない。どれだけ時間が経ったのかも分からないが、僕は電車に乗っていて、何駅かも分からないところで駅員さんに「新幹線の切符ください」と言っているところで意識が戻って、駅員さんに「ここは新幹線走ってません。東京か品川に行ってください」と言われた。

何駅かも分からないまま、また僕は意識が朦朧として、次に意識が戻った時には新幹線に乗っていたし、ちゃんと名古屋までの切符を買っていたし、あと30分で名古屋じゃんというベストタイミングだった。

帰れた!何が起こったのかはもう知りたくもない!帰れたからもう良い!
あ、裸足じゃん!え、いつから!

と思っていたら、ケイジョウ君から連絡が来てて「オルガンバーに靴あるよ」と言われた。そこから裸足なんだ。まあ電車に乗る時に脱ぐわけないわな。

「山口百恵みたいな感じで、俺、スニーカーを置いたから、もう引退させて下さい」
と返信した。


今回はスニーカーだったか。その可能性も想定して、靴ヒモをギュッとしておいたんだけどなあ。でも軽傷だなあ。助かったと言えるレベルだなあと幸せを感じながらペタペタと帰宅した。


鼻を怪我していたが、もう気にしない。順位も点数も気にしない。

僕はスニーカーを置いたのだ。

大仏バーナイト

数年に一度開催される大仏バーナイト。
フライヤーには酒の甲子園と書いてある。
僕はこのパーティーに行きたくない。すごく行きたくない。でも毎回呼ばれる。

このオファーがあったのは1カ月半前。
大仏くんから電話があった。出た瞬間に大仏くんが何か言う前に「いやだ。行きたくない」と先制したものの「まあまあまあ」と言われた。行く意味もないし、何かを失うから嫌だと力説しても「まあまあまあ」しか言われない。言葉が通じない。これはオファーの電話じゃない。ただの通告だった。最後の悪あがきとして「行かないとは言わないが、行くとも言わん」と言った。大仏くんは「じゃあ、よろしくです」と言って電話は切れた。

「まあまあまあ」「気合いでしょ」「じゃあよろしくです」の3フレーズだけで押し切られたし、「大仏バーナイト」というフレーズが出なかった気もするのだが、しっかりとフライヤーに名前が載せられた。何かを本気で全力で断ったのは人生でもこのパーティーのオファーだけなのだが、僕の本気と全力が叶った事は無い。

この日からパーティー当日まで、僕は元気が無くなった。
彼女は忙しい時期なので休みが取れない。僕ひとり。倒れるまで酒を飲んで、朝に新幹線で名古屋に帰らねばならない。ホテルを取っても、チェックアウトの時間なんかに起きれないし、マンガ喫茶はというと、そもそも入店拒否されるし、うまく入店できても、室内で吐いた経験もあるので、ここは何としても帰る。の一択なのだが、どうシミュレーションしても帰れる気がしない。携帯と財布を失くす事だけはしたくない。携帯は膨大な時間を費やしたゲームのデータがある。あと最悪なのは新幹線の中で力尽きて、終点まで行く事で、山手線をぐるぐるするのとは別格の時間と金が奪われる。博多まで行ったら、もう旅行するしかない。でも二日酔いが酷いだろうから旅行にならない気もする。

なんでこんな心配させられるんだ。くそう。
本気で断ったはずなのに。

どうにか、150〜200点で抑えて、大仏くんから逃げ回るしかない。
大仏くんが酔っ払うと、何故だか僕を探し始める。暗闇に隠れてても、携帯で照らし回って僕を探す。見つけると、めちゃくちゃ飲ませてくる。ファイナルファンタジーのトンベリみたいだ。たぶん大仏くんにとって、僕は「壊れないオモチャ」みたいなもので、どれだけ飲ませても死にはしないし、そのあとにいろんな身体的精神的経済的ダメージがあっても請求もされない。電話1本でほいほいと呼べる。まあ、そんなところだろう。

どうやったらうまく帰れるんだろう。という出口の無い問題を抱えて当日を迎えた。

「行かない」という煌びやかな出口は見えているのだが、人としてそれはどうだろう。いや、そもそも人として大仏くんはどうなんだ。ほぼ殺人未遂じゃなかろうか、いや今ここから悩んでも仕方ない。電話に出なきゃ良かった。これも今悩むことじゃない。ああああああああ。もう出発の時間じゃないか、あんまり寝れなかったな。

そんなこんなで、僕は着替えてまんまと出発した。